吟譜の表現方法(1)歴史的変遷に関する考察

               
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  前項の[2.音階]で少し触れたが、ここで五線譜も含めた吟譜の表現方法について総括的に記述する。

1)歴史的変遷に関する考察

 現在の詩吟の発生は明治維新よりも少し前のようであるが、その頃の吟譜は単なる漢詩、それも「白文」と呼ばれる漢字だけからなる、いわゆる漢文だったのではないかと思う。
これを元に師匠が吟じ、弟子が口真似する、いわゆる口伝で伝えられたのではなかろうか。
その後、現在の吟譜には流派によって違いがあると思うが、それらを含めて岳風会系の吟譜の変化を推測すると次のようになる。
ただ、ふりがなをつけるかどうかの区別は省略している。

@白文
A余韻記号、音高記号を付けた返し点を付けた白文。
B余韻記号、音高記号を付けた読み下し文
Cアクセント記号、余韻記号、音高記号を付けた読み下し文
D前項のCに音階全ての音が分かる音高記号を付けた読み下し文

 現在の岳風会の教本はBに相当する。その前の版ではAであったようである。岳精流の教本はCである。
アクセントを重要だと考えた結果である。
Dは筆者が想定するものである。

       (2)
岳風会教本「第一 和漢吟詩の吟じ方『漢詩の吟じ方 木村岳風述』」より
      (3)
岳風会教本「第一 和漢吟詩の吟じ方より
        (4)
岳精流教本(天の巻)より
        (5)
(4)に音高を更に詳しく指定するために追加したもの。

 Dについて詳しく説明する。
   4つの図に共通することであるが、長三角形は音高を示すもので右上がりは高音(ラシド)、水平は中音(レミファ)、そして右下がりは低音(ラシド)を示す。
 
Dの図で、三角形の上に点があるのは高音、例えば右上がりの三角形の上に点があるものは高高音(ド)、点がないのは中高音(シ)、下に点があるのは低高音(ラ)であり、他のも同様である。水平三角形に点のないのは中中音であるが、これは主音のことである。
 このように点を付ける、ことによって、ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドの四つの音を表現することができる。
「粛々」の 余韻で「一段下げの後ゆり止め」になっているのは、その前の「ファ」から「ミ」に1音下げてからゆり止めすることを表す。
ちなみに上のゆり止めは、「ファ」でのゆり止めである。岳風会系では、途中「ラ」に上がってまた「ファ」に戻った上でゆり止めするのが実際である。
「十年」のゆり止めは最初「シ」から始まり一音下げて「ラ」のゆり止めに移行する。最初から「ラ」から始めることも可能であるが私が教わった節調に基づいたものである。どちらにしても(4)では同じ表現になる。
ということは、(5)のような、より厳密な音高表現をすると節調の自由度が低下することを意味する。
 また、ベテランならこのような厳密な音高表現は必要でなく、(4)の吟譜で十分である、ということを念頭に置いておく必要がある。
 (5)の吟譜が(4)の吟譜よりも優れている点は「初心者に分かりやすい」である。

 (3)と(4)の違いはアクセント記号が記されているかどうかの違いである。これに関しては別項を設けて詳述する。

 
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